原価計算基準 第2章 実際原価の計算


第2章 実際原価の計算

7 実際原価の計算手続

 実際原価の計算においては、製造原価は、原則としてその実際発生額を、まず費目別に計算し、次いで原価部門別に計算し、最後に製品別に集計する。販売費および一般管理費は、原則として、一定期間における実際発生額を、費目別に計算する。

第1節 製造原価要素の分類基準

8 製造原価要素の分類基準

 原価要素は、製造原価要素と販売費および一般管理費の要素に分類する。
 製造原価要素を分類する基準は次にようである。
(一)形態別分類
  形態別分類とは、財務会計における費用の発生を基礎とする分類、すなわち原価発生の形態による分類であり、原価要素は、この分類基準によってこれを材料費、労務費および経費に属する各費目に分類する。
 材料費とは、物品の消費によって生ずる原価をいい、おおむね次のように細分する。
1 素材費(または原料費)
2 買入部品費
3 燃料費
4 工場消耗品費
5 消耗工具器具
 労務費とは、労働用役の消費によって生ずる原価をいい、おおむね次のように細分する。
1 賃金(基本給のほか)
2 給料
3 雑給
4 従業員賞与手当
5 退職給与引当金繰入額
6 福利費(健康保険料負担金等)
 経費とは、材料費、労務費以外の原価要素をいい、減価償却費、たな卸減耗費および福利施設負担額、賃借料、修繕量、電力料、旅費交通費等の諸支払経費に細分する。
 原価要素の形態別分類は、財務会計における費用の発生を基礎とする分類であるから、原価計算は、原価計算は、財務会計から原価に関するこの形態別分類による基礎資料を受け取り、これに基づいて原価を計算する。この意味でこの分類は、原価に関する基礎的分類であり、原価計算と財務会計との関連上重要である。
(二)機能別分類
 機能別分類とは、原価が経営上のいかなる機能のために発生したかによる分類であり、原価要素は、この分類基準によってこれを機能別に分類する。この分類基準によれば、たとえば、材料費は、主要材料費、および修繕材料費、試験研究材料費等の補助材料費、ならびに工場消耗品費等に、賃金は、作業種類別直接賃金、間接作業賃金、手持賃金等に、経費は、各部門の機能別経費に分類される。
(三)製品との関連における分類
 製品との関連における分類とは、製品に対する原価発生の様態、すなわち原価の発生が一定単位の製品の生成に関して直接的に認識されるかどうかの性質上の区別による分類であり、原価要素は、この分類基準によってこれを直接費と間接費とに分類する。
1 直接費は、これを直接材料費、直接労務費および直接経費に分類し、さらに適当に細分する。
2 間接費は、これを間接材料費、間接労務費および間接経費に分類し、さらに適当に細分する。
 必要ある場合には、直接労務費と製造間接費とを合わせ、又は直接材料費以外の原価要素を総括して、これを加工費として分類することができる。
(四)操業度との関連における分類
 操業度との関連における分類とは、操業度の増減に対する原価発生の態様による分類であり、原価要素は、この分類基準によってこれを固定費と変動費に分類する。ここに操業度とは、生産設備を一定とした場合におけるその利用度をいう。固定費とは、操業度の増減にかかわらず、変化しない原価要素をいい、変動費とは、操業度の増減に応じて比例的に増減する原価要素をいう。
 ある範囲内の操業度の変化では、固定的であり、これをこえると急増し、再び固定化する原価要素たとえば監督者の給料等、又は操業度が零の場合にも一定額が発生し、同時に操業度の増加に応じて比例的に増加する原価要素たとえば電力料等は、これを準固定費又は準変動費となづける。
 準固定費又は準変動費は、固定費又は変動費とみなして、これをいずれかに帰属させるか、もしくは固定費と変動費とが合成されたものであると解し、これを固定費の部分と変動費の部分とに分解する。
(五)原価の管理可能性に基づく分類
 原価の管理可能性に基づく分類とは、原価の発生が一定の管理者層によって管理しうるかどうかによる分類であり、原価要素は、この分類基準によってこれを管理可能費と管理不能費とに分類する。下級管理者層にとって管理不能費であるものも、上級管理者層にとっては管理可能費となることがある。








第2節 原価の費目別計算

9 原価の費目別計算

 原価の費目別計算とは、一定期間における原価要素を費目別に分類測定する手続をいい、財務会計における費用計算であると同時に、原価計算における第一次の計算段階である。



10 費目別計算における原価要素の分類

 費目別計算においては、原価要素を、原則として、形態別分類を基礎とし、これを直接費と間接費とに大別し、さらに必要に応じ機能別分類を加味して、たとえば次のように分類する。
 直接費
  直接材料費
主要材料費(原料費)
   買入部品費
 直接労務費
 直接賃金(必要ある場合には作業種類別に細分する。)
 直接経費
  外注加工費
 間接費
  間接材料費
   補助材料費
   工場消耗品費
   消耗工具器具備品費
  間接労務費
   間接作業賃金
   間接工賃金
   手持賃金
   休業賃金
   給料
   従業員賞与手当
   退職給与引当金繰入額
   福利費(健康保険料負担金等)
  間接経費
   福利施設負担額
   厚生費
   減価償却費
   賃貸料
   保険料
   修繕料
   電力料
   ガス料
   水道料
   租税公課
   旅費交通費
   通信費
   保管料
   たな卸減耗費
   雑費
間接経費は、原則として形態別に分類するが、必要に応じ修繕費、運搬費等の複合費を設定することができる。



11 材料費計算

(一)直接材料費、補助材料費等であって、出入記録を行なう材料に関する原価は、各種の材料につき原価計算期間における実際の消費量に、その消費価格を乗じて計算する。
(二)材料の実際の消費量は、原則として継続記録法によって計算する。ただし、材料であって、その消費量を継続記録法によって計算することが困難なもの又はその必要のないものについては、たな卸計算法を適用することができる。
(三)材料の消費価格は、原則として購入原価をもって計算する。
 同種材料の購入原価が異なる場合、その消費価格の計算は、次のような方法による。
1 先入先出法
2 移動平均法
3 総平均法
4 後入先出法
5 個別法
 材料の消費価格は、必要ある場合には、予定価格等をもって計算することができる。
(四)材料の消費価格は、原則として、実際の購入原価とし、次のいずれかの金額によって計算する。
1 購入代価に買入手数料、引取運賃、荷役費、保険料、関税等材料買入に要した引取費用を加算した金額
2 購入代価に引取費用ならびに購入事務、検収、整理、選別、手入、保管等に要した費用(引取費用と合わせて以下これを「材料副費」という。)を加算した金額。ただし、必要ある場合には、引取費用以外の材料副費の一部を購入代価に加算しないことができる。
 購入代価に加算する材料副費の一部又は全部は、これを予定配賦率によって計算することができる。予定配賦率は、一定期間の材料副費の予定総額を、その期間における材料の予定購入代価又は予定購入数量の総額をもって除して算定する。ただし、購入事務費、検収費、整理費、選別費、手入費、保管費等については、それぞれに適当な予定配賦率を設定することができる。
 材料副費の一部を材料の購入原価に算入しない場合には、これに間接経費に属する項目とし又は材料費に配賦する。
 購入した材料に対して値引又は割戻等を受けたときには、これを材料の購入原価から控除する。ただし、値引又は割戻等が材料消費後に判明した場合には、これを同種材料の購入原価から控除し、値引又は割戻等を受けた材料が判明しない場合には、これを当期の材料副費等から控除し、又はその他適当な方法によって処理することができる。
 材料の購入原価は、必要ある場合には、予定価格等をもって計算することができる。
 他工場からの振替製品の受入価格は、必要ある場合には、正常市価によることができる。
(五)間接材料費であって、工場消耗品、消耗工具器具備品等、継続記録法又はたな卸資産計算法による出入記録を行なわないものの原価は、原則として当該原価計算期間における買入額をもって計算する。



12 労務費計算

(一)直接賃金等であって、作業時間又は作業量の測定を行なう労務費は、実際の作業時間又は作業量に賃率を乗じて計算する。賃率は、実際の個別賃率又は、職場もしくは作業区分ごとの平均賃率による。平均賃率は、必要ある場合には、当該原価計算期間の負担に属する要支払額をもって計算することができる。
(二)間接労務費であって、間接工賃金、給料、賞与手当等は、原則として当該原価計算期間の負担に属する要支払額をもって計算する。



13 経費計算

(一)経費は、原則として当該原価計算期間の実際の発生額をもって計算する。ただし、必要ある場合には、予定価格又は予定額をもって計算することができる。
(二)減価償却費、不動産賃借料等であって、数ヵ月を一時に総括的に計算し又は支払う経費については、これを月割り計算する。
(三)電力料、ガス代、水道料等であって、消費量を計算できる経費については、その実際消費量に基づいて計算する。



14 費目別計算における予定価格等の適用

 費目別計算において、一定期間における原価要素の発生を測定するに当たり、予定価格等を適用する場合には、これをその適用される期間における実際価格にできる限り近似させ、価格差異をなるべく僅少にするように定める。








第3節 原価の部門別計算

15 原価の部門別計算

 原価の部門別計算とは、費目別計算においては握された原価要素を、原価部門別に分類集計する手続をいい、原価計算における第二次の計算段階である。



16 原価部門の設定

 原価部門とは、原価の発生を機能別、責任区分別に管理するとともに、製品原価の計算を正確にするために、原価要素を分類集計する計算組織上の区分をいい、これを諸製造部門と諸補助部門とに分ける。製造および補助の諸部門は、次の基準により、かつ、経営の特質に応じて適当にこれを区分設定する。
(一)製造部門
 製造部門とは、直接製造作業の行なわれる部門をいい、製品の種類別、製品生成の段階、製造活動の種類別等にしたがって、これを各所の部門又は工程に分ける。たとえば機械製作工場における鋳造、機械加工、組立等の各部門はその例である。
 副産物の加工、包装品の製造等を行なういわゆる副経営は、これを製造部門とする。
 製造に関する諸部門は、必要ある場合には、さらに機械設備の種類、作業区分等にしたがって、これを各小工程又は各作業単位に細分する。
(二)補助部門
 補助部門とは、製造部門に対して補助的関係にある部門をいい、これを補助経営部門と工場管理部門とに分け、さらに機能の種類別等にしたがって、これを各種の部門に分ける。
 補助経営部門とは、その事業の目的とする製品の生産に直接関与しないで、自己の製品又は用役を製造部門に提供する諸部門をいい、たとえば動力部、修繕部、運搬部、工具制作部、検査部等がそれである。
 工具制作、修繕、動力等の補助経営部門が相当の規模になった場合には、これを独立の経営単位とし、計算上製造部門として取り扱う。
 工場管理部門とは、管理的機能を行なう諸部門をいい、たとえば材料部、労務部、企画部、試験研究部、工場事務部等がそれである。



17 部門個別費と部門共通費

 原価要素は、これを原価部門に分類集計するに当たり、当該部門において発生したことが直接的に認識されるかどうかによって、部門個別費と部門共通費とに分類する。
 部門個別費は、原価部門における発生額を直接に当該部門に賦課し、部門共通費は、原価要素別に又はその性質に基づいて分類された原価要素群別にもしくは一括して、適当な配賦基準によって関係各部門に配賦する。部門共通費であって工場全般に関して発生し、適当な配賦基準の得がたいものは、これを一般費とし、補助部門費として処理することができる。



18 部門別計算の手続

(一)原価要素の全部又は一部は、まずこれを各製造部門および補助部門に賦課又は配賦する。この場合、部門に集計する原価要素の範囲は、製品原価の正確な計算および原価管理の必要によってこれを定める。たとえば、個別原価計算においては、製造間接費のほか、直接労務費をも製造部門に集計することがあり、総合原価計算においては、すべての製造原価要素又は加工費を製造部門に集計することがある。
 各部門に集計された原価要素は、必要ある場合には、これを変動費と固定費又は管理可能費と管理不能費とに区別する。
(二)次いで補助部門費は、直接配賦法、階梯式配賦法、相互配賦法等にしたがい、適当な配賦基準によって、これを各製造部門に配賦し、製造部門費を計算する。
 一部の補助部門費は、必要ある場合には、これを製造部門に配賦しないで直接に製品に配賦することができる。
(三)製造部門に集計された原価要素は、必要に応じさらにこれをその部門における小工程又は作業単位に集計する。この場合、小工程又は作業単位には、その小工程等において管理可能の原価要素又は直接労務費のみを集計し、そうでないものは共通費および他部門配賦費とする。








第4節 原価の製品別計算

19 原価の製品別計算および原価単位

 原価の製品別計算とは、原価要素を一定の製品単位に集計し、単位製品の製造原価を算定する手続をいい、原価計算における第三次の計算段階である。
 製品別計算のためには、原価を集計する一定の製品単位すなわち原価単位を定める。原価単位は、これを個数、時間数、度量衡単位等をもって示し、業種の特質に応じて適当に定める。



20 製品別計算の形態

 製品別計算は、経営における生産形態の業種別に対応して、これを次のような類型に区分する。
(一)単純総合原価計算
(二)等級別総合原価計算
(三)組別総合原価計算
(四)個別原価計算



21 単純総合原価計算

 単純総合原価計算は、同種製品を反復連続的に生産する生産形態に適用する。単純総合原価計算にあっては、一原価計算期間(以下これを「一期間」という。)に発生したすべての原価要素を集計して当期製造費用を求め、これに期首仕掛品原価を加え、この合計額(以下これを「総製造費用」という。)を、完成品と期末仕掛品とに分割計算することにより、完成品総合原価を計算し、これを製品単位に均分して単位原価を計算する。



22 等級別総合原価計算

等級別総合原価計算は、同一工程において、同種製品を連続生産するが、その製品を形状、大きさ、品位等によって等級に区別する場合に適用する。
 等級別総合原価計算にあっては、各等級製品について適当な等価係数を定め、一期間における完成品の総合原価又は一期間の製造費用を等価係数に基づき各等級製品にあん分してその製品原価を計算する。
 等価係数の算定およびこれに基づく等級製品原価の計算は、次のいずれかの方法による。
(一)各等級製品の重量、長さ、面積、純分度、熱量、硬度等原価の発生と関連ある製品の諸性質に基づいて等価係数を算定し、これを各等級製品の一期間における生産量に応じた積数の比をもって、一期間の完成品の総合原価を一括的に各等級製品にあん分してその製品原価を計算し、これを製品単位に均分して単位原価を計算する。
(二)一期間の製造費用を構成する各原価要素につき、又はその性質に基づいて分類された数個の原価要素群につき、各等級製品の標準材料消費量、標準作業時間等各原価要素又は原価要素群の発生と関連ある物量的数値等に基づき、それぞれの等価係数を算定し、これを各等級製品の一期間における生産量に乗じた積数の比をもって、各原価要素又は原価要素群をあん分して、各等級製品の一期間の製造費用を計算し、この製造費用と各等級製品の期首仕掛品原価とを、当期における各等級製品の完成品とその期末仕掛品とに分割することにより、当期における各等級製品の総合原価を計算し、これを製品単位に均分して単位原価を計算する。
 この場合、原価要素別又は原価要素群別に定めた等価係数を個別的に適用しないで、各原価要素又は原価要素群の重要性を加味して総括し、この総括的等価係数に基づいて、一期間の完成品の総合原価を一括的に各等級製品にあん分して、その製品原価を計算することができる。



23 組別総合原価計算

 組別総合原価計算は、異種製品を組別に連続生産する生産形態に適用する。
 組別総合原価計算にあっては、一期間の製造費用を組直接費と、組間接費又は原料費と加工費とに分け、個別原価計算に準じ、組直接費又は原料費は、各組の製品に賦課し、組間接費又は加工費は、適当な配賦基準により各組に配賦する。次いで一期間における組別の製造費用と期首仕掛品原価とを、当期における組別の完成品とその期末仕掛品とに分割することにより、当期における組別の完成品総合原価を計算し、これを製品単位に均分して単位原価を計算する。



24 総合原価計算における完成品総合原価と期末仕掛品原価

 単純総合原価計算、等級別総合原価計算および組別総合原価計算は、いずれも原価集計の単位が期間生産量であることを特質とする。すなわち、いずれも継続製造指図書に基づき、一期間における生産量について総製造費用を算定し、これを期間生産量に分割負担させることによって完成品総合原価を計算する点において共通する。したがって、これらの原価計算を総合原価計算の形態と総称する。
 総合原価計算における完成品総合原価と期末仕掛品原価は、次の手続により算定する。
(一)まず、当期製造費用および期首仕掛品原価を、原則として直接材料費と加工費とに分け、期末仕掛品の完成品換算量を直接材料費と加工費とについて算定する。
 期末仕掛品の完成品換算量は、直接材料費については、期末仕掛品に含まれる直接材料消費量の完成品に含まれるそれに対する比率を算定し、これを期末仕掛品原材料に乗じて計算する。加工費については、期末仕掛品の仕上り程度の完成品に対する比率を算定し、これを期末仕掛品現在量に乗じて計算する。
(二)次いで、当期製造費用および期首仕掛品原価を、次のいずれかの方法により、完成品と期末仕掛品とに分割して、完成品総合原価と期末仕掛品原価とに計算する。
1 当期の直接材料費総額(期首仕掛品および当期製造費用中に含まれる直接材料費の合計額)および当期の加工費総額(期首仕掛品および当月製造費用中に含まれる加工費の合計額)を、それぞれ完成品数量と期末仕掛品の完成品換算量との比により完成品と期末仕掛品とにあん分して、それぞれ両者に含まれる直接材料費と加工費とを算定し、これをそれぞれ合計して完成品総合原価および期末仕掛品原価を算定する(平均法)。
2期首仕掛品原価は、すべてこれを完成品の原価に算入し、当期製造費用を、完成品数量から、期首仕掛品の完成品換算量を差し引いた数量と期末仕掛品の完成品換算量との比により、完成品と期末仕掛品とにあん分して完成品総合原価および期末仕掛品原価を算定する(先入先出法)。
3 期末仕掛品の完成品換算量のうち、期首仕掛品の完成品換算量に相当する部分については、期首仕掛品原価をそのまま適用して評価し、これを超過する期末仕掛品の完成品換算量と完成品数量との比により、当期製造費用を期末仕掛品と完成品とにあん分し、期末仕掛品に対してあん分された額と期首仕掛品原価との合計額をもって、期末仕掛品原価とし、完成品にあん分された額を完成品総合原価とする(後入先出法)。
4 前三号の方法において、加工費について期末仕掛品の完成品換算量を計算することが困難な場合には、当期の加工費総額は、すべてこれを完成品に負担させ、期末仕掛品は、直接材料費のみをもって計算することができる。
5 期末仕掛品は、必要ある場合には、予定原価又は正常原価をもって評価することができる。
6 期末仕掛品の数量が毎期ほぼ等しい場合には、総合原価の計算上これを無視し、当期製造費用をもってそのまま完成品総合原価とすることができる。



25 工程別総合原価計算

 総合原価計算において、製造工程が二以上の連続する工程に分けられ、工程ごとにその工程製品の総合原価を計算する場合(この方法を「工程別総合原価計算」という。)には、一工程から次工程へ振り替えられた工程製品の総合原価を、前工程費又は原材料として次工程の製造費用に加算する。この場合、工程間に振り替えられる工程製品の計算は、予定原価又は正常原価によることができる。



26 加工費工程別総合原価計算

 原料がすべて最初の工程の始点で投入され、その後の工程では、単にこれを加工するにすぎない場合には、各工程別に一期間の加工費を集計し、それに原料費を加算することにより、完成品総合原価を計算する。この方法を加工費工程別総合原価計算(加工費法)という。



27 仕損および減損の処理

 総合原価計算においては、仕損の費用は、原則として、特別に仕損費の費目を設けることをしないで、これをその期の完成品と期末仕掛品とに負担させる。
 加工中に蒸発、粉散、ガス化、煙化等によって生ずる原料の減損の処理は、仕損に準ずる。



28 副産物等の処理と評価

 総合原価計算において、副産物が生ずる場合には、その価額を算定して、これを主産物の総合原価から控除する。副産物とは、主産物の製造過程から必然に派生する物品をいう。
 副産物の価額は、次のような方法によって算定した額とする。
(一)副産物で、そのまま外部に売却できるものは、見積売却価額から販売費および一般管理費又は販売費、一般管理費および通常の利益の見積額を控除した額
(二)副産物で、加工の上売却できるものは、加工製品の見積売却価額から加工費、販売費および一般管理費又は加工費、販売費、一般管理費および通常の利益の見積額を控除した額
(三)副産物で、そのまま自家消費されるものは、これによって節約されるべき物品の見積購入価額
(四)副産物で、加工の上自家消費されるものは、これによって節約されるべき物品の見積購入価額から加工費の見積額を控除した額
 軽微な副産物は、前項の手続によらないで、これを売却して得た収入を、原価計算外の収益とすることができる。
 作業くず、仕損品等の処理および評価は、副産物に準ずる。



29 連産品の計算

 連産品とは、同一工程において同一原料から生産される異種の製品であって、相互に主副を明確に区別できないものをいう。連産品の価額は、連産品の正常市価等を基準として定めた等価係数に基づき、一期間の総合原価を連産品にあん分して計算する。
この場合、連産品で、加工の上売却できるものは、加工製品の見積売却価額から加工費の見積額を控除した額をもって、その正常市価とみなし、等価係数算定の基礎とする。ただし、必要ある場合には、連産品の一種又は数種の価額を副産物に準じて計算し、これを一期間の総合原価から控除した額をもって、他の連産品の価額とすることができる。



30 総合原価計算における直接原価計算

 総合原価計算において、必要ある場合には、一期間における製造費用のうち、変動直接費および変動間接費のみを部門に集計して部門費を計算し、固定費を製品に集計しないことができる。
 この場合、会計年度末においては、当該会計期間に発生した固定費額は、これを期末の仕掛品および製品と当年度の売上品とに配賦する。



31 個別原価計算

 個別原価計算は、種類を異にする製品を個別的に生産する生産形態に適用する。
 個別原価計算にあっては、特定製造指図書について個別的に直接費および間接費を集計し、製品原価は、これを当該指図書に含まれる製品の生産完了時に算定する。
 経営の目的とする製品の生産に際してのみでなく、自家用の建物、機械、工具等の製作又は修繕、試験研究、試作、仕損品の補修、仕損による代品の製作等に際しても、これを特定指図書を発行して行なう場合には、個別原価計算の方法によってその原価を算定する。



32 直接費の賦課

 個別原価計算における直接費は、発生のつど又は敵に整理区分して、これを当該指図書に賦課する。
(一)直接材料費は、当該指図書に関する実際消費量に、その消費価格を乗じて計算する。消費価格の計算は、第2節11の(3)に定めるところによる。
 自家生産材料の消費価格は、実際原価又は予定価格等をもって計算する。
(二)直接労務費は、当該指図書に関する実際の作業時間又は作業量に、その賃率を乗じて計算する。賃率の計算は、第2節12(1)に定めるところによる。
(三)直接経費は、原則として当該指図書に関する実際発生額をもって計算する。



33 間接費の配賦

(一)個別原価計算における間接費は、原則として部門間接費として各指図書に配賦する。
(二)間接費は、原則として予定配賦率をもって各指図書に配賦する。
(三)部門間接費の予定配賦率は、一定期間における各部門の間接費予定額又は各部門の固定間接費予定額又は各部門の固定間接費予定額および変動間接費予定額を、それぞれ同期間における当該部門の予定配賦基準をもって除して算定する。
(四)一定期間における各部門の間接費予定額又は各部門の固定間接費予定額及び変動間接費予定額は、次のように計算する。
1 まず、間接費を固定費および変動費に分類して、過去におけるそれぞれの原価要素の実績をは握する。この場合、間接費を固定費と変動費とに分類するためには、間接費要素に関する各費目を調査し、費目によって固定費又は変動費のいずれかに分類する。準固定費又は準変動費は、実際値の変化の調査に基づき、これを固定費又は変動費とみなして、そのいずれかに帰属させるか、もしくはその固定費部分および変動費率を測定し、これを固定費と変動費とに分解する。
2 次に、将来における物価の変動予想を考慮して、これに修正を加える。
3 さらに固定費は、設備計画その他固定費に影響する計画の変更等を考慮し、変動費は、製造条件の変更等変動費に影響する条件の変化を考慮して、これを修正する。
(五)予定配賦率の計算の基礎となる予定操業度は、原則として、1年又は一会計期間において予期される操業度であり、それは、技術的に達成可能な最大操業度ではなく、この期間における生産ならびに販売事情を考慮して定めた操業度である。
 操業度は、原則として直接作業時間、機械運転時間、生産数量等間接費の発生と関係ある適当な物量基準によってこれを表示する。
 操業度は、原則としてこれを各部門に区分して測定表示する。
(六)部門間接費の各指図書への配賦額は、各製造部門又はこれを細分した各小工程又は各作業単位別に、次のいずれかによって計算する。
1 間接費予定配賦率に、各指図書に関する実際の配賦基準に乗じて計算する。
2 固定間接費予定配賦率および変動間接費予定配賦率に、それぞれ各指図書に関する実際の配賦基準を乗じて計算する。
(七)一部の補助部門費を製造部門に配賦しないで、直接に指図書に配賦する場合には、そのおのおのにつき適当な基準を定めてこれを配賦する。



34 加工費の配賦

 個別原価計算において、労働が機械作業と密接に結合して総合的な作業となり、そのため製品に賦課すべき直接労務費と製造間接費とを分離することが困難な場合その他必要ある場合には、加工費について部門別計算を行ない、部門加工費を各指図書に配賦することができる。部門加工費の指図書への配賦は、原則として予定配賦率による。予定加工費配賦率の計算は、予定間接費配賦率の計算に準ずる。



35 仕損費の計算および処理

 個別原価計算において、仕損が発生する場合には、原則として次の手続により仕損費を計算する。
(一)仕損が補修によって回復でき、補修のために補修指図書を発行する場合には、補修指図書に集計された製造原価を仕損費とする。
(二)仕損が補修によって回復できず、代品を制作するために新たに製造指図書を発行する場合において
1 旧製造指図書の全部が仕損となったときは、旧製造指図書に集計された製造原価を仕損費とする。
2 旧製造指図書の一部が仕損となったときは、旧製造指図書に集計された製造原価を仕損費とする。
(三)仕損の補修又は代品の製作のために別個の指図書を発行しない場合には、仕損の補修等に要する製造原価を見積ってこれを仕損費とする。
 前記(二)又は(三)の場合において、仕損品が売却価値又は利用価値を有する場合には、その見積額を控除した額を仕損費とする。
 軽微な仕損については、仕損費を計上しないで、単に仕損品の見積売却価額又は見積利用価額を、当該製造指図書に集計された製造原価から控除するにとどめることができる。
 仕損費の処理は、次のいずれかによる。
(一)仕損費の実際発生額又は見積額を、当該指図書に賦課する。
(二)仕損費を間接費とし、これを仕損費の発生部門に賦課する。この場合、間接費の予定配賦率の計算において、当該製造部門の予定間接費額中に、仕損費の予定額を算入する。



36 作業くずの処理

 個別原価計算において、作業くずは、これを総合原価計算の場合に準じて評価し、その発生部門の部門費から控除する。ただし、必要ある場合には、これを当該製造指図書の直接材料費又は製造原価から控除することができる。








第5節 販売費および一般管理費の計算

37 販売費および一般管理費の分類基準

 販売費および一般管理費の要素を分類する基準は、次のようである。
(一)形態別分類
 販売費および一般管理費の要素は、この分類基準によって、たとえば、給料、賃金、消耗品費、減価償却費、賃借料、保険料、修繕料、電力料、租税公課、運賃、保管料、旅費交通費、通信費、広告料等にこれを分類する。
(二)機能別分類
 販売費および一般管理費の要素は、この分類基準によって、たとえば、広告宣伝費、出荷運送費、倉庫費、掛売集金費、販売調査費、販売事務費、企画費、技術研究費、経理費、重役室費等にこれを分類する。
 この分類にさいしては、当該機能について発生したことが直接的に認識される要素を、は握して集計する。たとえば広告宣伝費には、広告宣伝係員の給料、賞与手当、見本費、広告設備、減価償却費、新聞雑誌広告料、その他の広告料、通信費等が集計される。
(三)直接費と間接費
 販売費および一般管理費の要素は、販売品種等の区別に関連して、これを直接費と間接費とに区分する。
(四)固定費と変動費
(五)管理可能費と管理不能費



38 販売費および一般管理費

 販売費および一般管理費は、原則として、形態別分類を基礎とし、これを直接費と間接費とに大別し、さらに必要に応じ機能別分類を加味して分類し、一定期間の発生額を計算する。その計算は、製造原価の費目別計算に準ずる。



39 技術研究費

 新製品又は新技術の開拓等の費用であって、企業全般に関するものは、必要ある場合には、販売費および一般管理費と区別し別個の項目として記載することができる。




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第2章 実際原価の計算



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